ヘタレ攻略日記その20

父さん、僕はちょっと敵のことを甘く見すぎていたようだ。
僕はこの日、幼い頃の僕らが人間として生きることを否定し長年の間苦しめ続けた場所、そして今、己の勝手で世界の人々の心を奪い、操り出した場所へと向かったんだ。僕は、ここで自分がすべき事をすれば、全て終わると思っていたんだ…。


僕の持つ地図の中央にそびえるイブール教の大神殿には、感情のない人々が虚ろな瞳でみな1つの事を叫んでいた。みんなある人の名前を叫んでいた。僕は嫌でたまらなかった。そんな風にあの人の名前を叫んだりしないでくれ!なんでその人の名を叫ぶんだ!あの人がこんなことをするはずないじゃないか!
そんな大きな声で叫ぶ人々の中に、なんと僕がずっと身動きの取れずにいた間、そっと見守っていたあの子供の姿もあったんだ。僕はショックを隠せなかったよ。
人々をこんな風にした張本人とやりあえばきっとみんな救われるんだ、そう思いながら僕らはどんどん神殿の内部へ進んだ。すると目の前に、僕の最愛の人が変わり果てた姿でそこにいた。
僕は怒り心頭になりながら神殿中央に立つその人に目をやった。その人は…。僕の…。どうしてだよ…。


その人は言ったんだ。信じられないことに父さんの悪口をね。僕はどうかなってしまいそうだった。信じてた人がこんな人だったのかと。こんな人になってしまったのかと。でも違う。僕の父さんが信じた人だ。最後まで僕も信じようと思った。コイツはきっと偽者なんだ!あの人なんかじゃない!
僕はあの人が何を言おうと頑なに拒んだ。本当にこれで良いのかと不安になりそうだったけど、もし、もしこれが本当のあの人の姿だったとしても、僕は戦わねばならないんだ。戦って間違いに気づかせてあげなければならないんだ。そしてその人は本当の姿を見せたよ。やっぱりこういうことだったんだな。


僕らはそいつを倒した。そこで人々は我に返ったけれど、僕の愛するビアンカの姿が戻らない。おかしい。焦りながら人々と話すと僕の倒した相手をさらに操る人がいると知った。僕らはそいつがいる場所へ向かった。途中あるものを発見したんだ。彼女にとってこんな辛い現実、どうすりゃいいんだ。マリアに話すべきか迷う。そしてヤツを見つけ出し倒したよ。イルミが女の子だけあってかなり辛そうだったけど、必死にギリギリのところで頑張ってくれた。もちろんヒソカも頑張ってくれた。でも、妙にあっけなかったんだ。
倒した後、これで終わるのかと思っていた僕に息絶え絶えのそいつは言った。なんだって?どういうことだよ!
そんな混乱している僕を嘲笑うかのようにまたアイツが現れた。アイツだ。ほっほっほっほ笑う、オカマ野郎が。アイツは一瞬にして今僕らが倒したヤツを消し飛ばし、僕らが本当に向かい合うべき敵の話をし姿を消した。残された僕らに、1つのリングだけが手元に残った。


魔界…?ミル…?なんなんだ。
わからないことだらけだったけど、僕らはビアンカの元へと急いだ。その時、緊張している僕らを癒すかのような優しい声が聞こえてきた。あぁ、あなたの声は、こんなにも綺麗で澄んだ声だったんですね。ヒソカも、イルミも、あなたの声に何かを感じたようです。
ビアンカの前に立つと、ビアンカはまもなく元の姿に戻った。何もわからずにいるようだったけど、目の前の僕らの姿に気がつき嬉しそうな顔を見せてくれた。10年経って、やっと僕ら家族は1つになれたよ。


グランバニアに戻ると子供達は母親から離れず本来の子供の姿に戻ったよ。町の人々も僕らが家族揃って無事帰ってきたことをとても喜んでくれた。
でも、僕はこれでいいのかわからなかった。子供達の嬉しそうな顔を見ると、もうここで僕は終わりにしようかと思った。あとはもう、これから起こることを、どんな苦しみが待ち受けているかわからないけど、世界中の人々と一緒に受け入れようかと思った。あの人ももうやめろと言っていたし…。僕は、これ以上何もしない方が良いのかと思ったんだ。
でも、違うよね、父さん。父さんと約束した僕のやるべきことは、ここで終わりなんかじゃないよね。
子供達も薄々気がついているようで僕の背中を押してくれた。やっと帰ってきたビアンカでさえも。子供達はもう、僕の知らない間に随分成長していたんだね。ヒソカ、お前はもう立派な勇者だ。


そして僕は、一緒に行くときかないビアンカをまだダメだと無理矢理城に残し、子供達を連れて魔界へと向かった。すっかり忘れていたけれど、あの場所がまさかこんな世界へと通じているとはね。
父さん、魔界はすごい所です。陽の光など当たることのない、闇に満ちた世界です。こんな場所にずっと閉じ込められているあの人のことを思うと、やはり僕らはまだ旅を終えるわけにはいかないよ。僕の本当の宿命の日がいつになるのかまたわからなくなったけど、どんなことがあっても迷ったりしない。覚悟はもう、できたんだ