ヘタレ攻略日記その10

父さん。傲慢ちきジジイの命令に背いてパペットマン探しをしていたらえらい時間が過ぎてしまいました。口説き落とすのにトータルして3日かかりました。僕はパペットマンに会いたいのに目の前に現れるのはリビングデッドとスモールグールばかり。もう、当分こいつらの顔は見たくないよ。
パペットマンパペットマンなんだ。倒した後に例のドキドキ▼印が出て、やったーーー!と思ったらおどりこの服。もうね、こっちはすげー心臓ドキドキしちゃったっていうのに。おどりこの服。
ふざけんなです。1人で顔を赤くしてしまいました。こんな姿、誰にも見せられない。それから、やっとパペットマンが出てきたと思ったらおばけきのこと一緒なんです。するとね、こっちが必死におばけきのこを退治してる間に、ヤツ、逃げちゃうんです。ひどいです。僕のこの熱い思いを知っておきながら。
今はやっとやっと仲間にできたからいいけど、あれだけ時間をかけたのに彼は一度も馬車に乗らないままモンスターじいさんの所に行きました。なんだろう?この空虚感。僕は、一生懸命にならなくてはいけないところをどうも間違えてるような気がします。


これでやっと僕は指輪探しの旅を再開したのだけれど、ここで僕は人生のターニングポイントにぶつかりました。例の、幼い頃におばけ退治に一緒に行った女の子と再会して、あの頃と同じように一緒に指輪を探しに行くことになったのだけど、指輪を見つけてサラボナに戻ったら、傲慢ちきジジイが今度は「一晩でどちらの女を選ぶか決めろ」って。もうね、何言ってるの?って、さすがの僕も思ってしまったよ。町の人たちもどちらになるのかで話題騒然で、僕の気持ちをみんな考えてないんだ。なんであんなジジイに僕の人生の大事な岐路を仕切られなきゃいけないんだよ。僕はまだ、マリアのことをすっぱり忘れられたわけじゃないのに。招待状出したって、僕、違う意味で涙が出そうだよ。


でももう我侭を言ってる場合じゃないところまで来てしまっていて、覚悟を決めてどちらかを選ばなくてはならないんだ。
まずフローラ。彼女はとても綺麗で心の澄んだ女性だ。どんな時でも僕を癒してくれる、そんなかげがえのない存在になると思う。それだけじゃない。家柄もとても良い娘さんだ。ホンモノのお嬢さんなんだ。こんな女性を放っておく男はいないんだきっと。
そしてビアンカ。おばけ退治の思い出くらいしかないけど、2つ年上の彼女はとても明るくて元気な人だ。もちろん美しさも兼ね備えている。それだけじゃない。田舎の温泉村に住んで、病気のお父さんを看病する優しさも持っている。お母さんは既に他界していて、僕の知らない間に彼女はたくさんの辛い出来事を1人で乗り越えてきたんだと思う。


そして、僕は今考え、一つの答えが出そうなんだ。僕は、ビアンカを選ぼうと思う。
フローラは申し分のない女性だ。ひょっとすると「彼女にしておけば…」と思うことがあるかもしれない。だけど、彼女は僕でなくても必ず幸せになれるんだ。相手が僕でなければならない理由が、彼女には1つも浮かんでこないんだ。それにね、彼女は女性らしすぎる。僕は少しくらい軽口の叩きあいができるような…、そうだな、この前宿屋のテレビで見たんだけど、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジとアスカの関係みたいな、「ばっかじゃないのー!?」とさらっと言えちゃうような、そのくらいの子の方が好きなんだ。もしフローラに少しでも突っ込んだことを言えば、彼女、たぶん落ち込んでしまうんだ。僕、そういうの求めてないから。ごめんなさいとか謝られても、ちっとも楽しくないんだ。
その点ビアンカなら、ちょっと勝気でおてんばのあの子のことだ。僕が少しくらい何か言っても軽く返してくれる。そのくらいの方が僕は一緒にいて楽しいし、なにしろ気持ちが楽になれる。人生を共にする相手に、いつまでも細やかな気遣いは精神的に疲れてしまうよ。僕は気遣おうとしなくても自然体でうまくやっていける相手と一緒にいたい。
それにね、さっきビアンカに会いに行ったら、あいつ、自分のことはいいから、フローラさんを幸せにしてあげてみたいな、そんな事を言うんだよ。ビアンカは相手のことばかり考えすぎるんだ。あの子だって幸せになりたいはずなのに。眠れないくらい緊張しているのに。僕は彼女の言葉の裏に隠された、本当の気持ちを酌んであげたい。勝手な思い込みかもしれないけどね。そして、1人でずっと頑張ってきた彼女をこれからは支えてやりたいんだ。辛いこともこれからは二人で半分ずつ。これなら今までよりずっとずっと、彼女も楽になれるだろう?


そういうわけで父さん、僕もやっと、これで一人前の男になるよ。どうか父さんも、僕のこの人生の門出を祝ってくれ。
あぁ、今夜はなんだか語りすぎたな。宿屋を抜け出して、夜空を眺めながらルラフェンの地酒「人生のオマケ」を飲み過ぎてしまったのがいけないな。美味しかったもんなぁ。


それにしても、僕はとても不思議だ。
僕には帰る家もない。仲間といえば言葉の通じないモンスターだらけだ。一旦町や村の外に出たら、暫くの間は宿屋に戻って風呂に入ったりせずにウロウロしている僕だ。
こんな僕の嫁にされようとしているのに、なぜ彼女達はあんなにドキドキワクワクできるんだろう。僕なら死んでも嫌だ。